ローンウルフシリーズ

 西の果て、イギリス。そこにとあるゲームブックシリーズがある。同作者による同舞台の単主
人公シリーズでありながら、約30巻の継続を果たしたと言うとんでもない作品が。
 それが「ローンウルフ」シリーズである。
 なんと今現在でもリメイクが為され、今世紀に入って本国で加筆版が出ている模様。
度終了した作品でありながら、続刊も予定されているようだ。

 自分が持っているのは和訳された4巻まで。だがそれでも、遊んでみると確かな完成度
の高さは感じ取れる。
 戦闘力点――FFでいう技術点――は10〜19の範囲でランダムに決まる。最低と最高で
9もの幅がある、相当に大雑把なシステムだ……と見えて、実は違う。戦闘は敵味方の戦
力差を横軸に、乱数を縦軸に並べた「戦闘結果表」によって進められる。
 これが上手い事数値を並べてあって、戦闘力点が低くても敵にそこそこダメージを与え
られるような配分になっているのだ。逆に戦闘力点が高くても、全くの無傷はなかなか許しても
らえない。そして主人公側に有利な補正がかけられており、全く互角の能力の敵
と戦ってもまず主人公が勝てるようになっている(無論、それなりに苦戦した上で)。
 その上で用意された「カイの教え」……要するに10種の技能なのだが、攻撃・防御・危
険回避や行動の補助など、多岐に渡る能力が用意されている。ゲーム中に行動補助系の技
能の活用機会が頻繁に与えられているので、戦闘力値の低いキャラクターでもちゃん
と生き残る事が可能だ。むしろ1巻あたりはヘタに戦闘力に偏らせたキャラクターよりも多
様な行動の取れる奴の方が進めやすい。並以下の強さしかないキャラクターで、たっ
た1回戦っただけでのクリアーがちゃんと可能であった。滅多に使わない「外れ」な技
能もあるが、そんな物に限って2巻のとても強い中ボスを回避する役に立ったりする。
 舞台となるソマーランドもかなりの力を入れて作られている。ゴブリンやオークといったお馴染
みのモンスターはおらず、この世界ならではの生き物や種族が住んでいる。新たな街へ行け
ば歴史や領主の政策話が語られる。キャンペーンゲームとしての完成度を高めるた
め、作者は純西欧風味の架空世界を丁寧に組み立てているようなのだ。

 どこを見ても穴や欠陥が無い。職人芸と言ってもいいだろう。
 日本では途中で打ち切られたのが嘘のようだ。
(どうやら全8巻らしい)

 ……すまん、ちと失礼。
 本当はなんとなく納得はできているんだ。
 自分は自作を書く上で様々なゲームを参考にさせてもらっているが、このシリーズから得た
物はほとんど無いんだ。
 古本屋で見かけたら自信をもって購入をお勧めできる。けれど見つかったのが一冊だけだっ
たら、そして同じ店に「ロボットコマンドゥ」があったら、自分はそっちを勧めてしまう
んだ。さあ、ガンタンクに外付けミサイルを取り付けて敵陣を焼き払うんだ!

 確かに面白いし欠点はほぼ無い。遊び終えるまで飽きる事もない。けれど遊び終えた時、
つまでも後を引くようなインパクトにどうにも乏しい気がしてならない。
 キャンペーンゲームとして、比類無き存在である事は認めざるを得ない。賞賛せざるを得な
い。だが単巻あたりで見た時、秀作ではあるんだがとんがった部分を感じない
だ。
 思えば日本で傑作とされる作品には、どこか目を引く点を持つ物が多い。

 50種類も魔法を用意したぜ!(1つの巻で使う物は限られるけど)
 正確に地図をかける迷宮が60階層だぜ!(地図不要の階も多いけど)
 1000項目の大ボリュームだぜ!(迷路は1歩ずつ項目さくけど)
 ドラクエUを原作以上に掘り下げたぜ!(関連書籍読まないとわからんネタあるけど)

 多少の欠陥があっても、強烈な個性を持つ作品は印象に残り易い。そしてゲー
ムとは娯楽品であり、無難が長所とならない事もある。「このゲーム、難はあるんだけど
なんか気に入ってるんだよなー」という作品の一つぐらい、誰しもあるんではなかろう
か?
 いや、ローンウルフにも高らかに謳える長所はある。無論、キャンペーンの長さとそれに支え
られた世界の奥行きだ。
 だがその長所、付き合って噛み締める事で初めて感じられる物であるのも確かだ。
 1巻のストーリーは「王さまの所へ行って来い→行ったよ着いた→じゃあ終了」
ほぼ説明できてしまう。独自の種族の説明、技能による多様な分岐、後の巻への伏線や続投
するNPCの顔見せ……後に大輪の花を咲かせるための種蒔きが、350項目とい
う容量を圧迫しているのだ。ソーサリー1巻も似たような話ではあるが、様々な村や強力な
ボスキャラ、魔法による理不尽なとんでもない失敗が鮮烈に残る。
 またキャンペーンである以上、通してプレイする事が有利なのは当然だ。だがローンウルフシ
リーズは、前の巻を通っている事が前提といっていい点がちらほら見られる。2巻から
始めると、路銀が足りずに即死イベントがあちこちに待ち受ける状況へ追いやられ、運を頼り
に進める事が多々ある。2巻で手に入る最強剣が本気で最強なので、それを持って
いるかどうかで3・4巻の難易度が激変する。通して遊ぶなら何の問題もない事だ。
がネット通販も無かった当時、本屋に1巻から置いてなければお手上げだ。店で取り寄
せてもらえば良い話ではあるが、当時の子供の乏しい小遣いで、物が届くまで他のゲームブッ
クを横目に待つのは厳しい話だった。

 そしてローンウルフシリーズ最大の武器、ソマーランドでのキャンペーンゲームも「ゲームブッ
クのファン」にアピールし易い物だったか?
 自分の意見を言わせて貰えば、それは「否」だ。
 完成度の高い西欧風架空世界は、イギリスでは王道でド直球なのだと思う。だがこの
日本では……コアでマニアックな物ではないだろうか? 魅了されたファンにとって至高の
逸品には成り得る。だがテーブルトークRPGにしろコンピューターRPGにしろ、日本人が日本
人向けに和製の物を作るにつれて、外国からの輸入品が激しく押されていった筈だ。
 日本のユーザーに「わかっていない」と烙印を押すか?
(いや、タチの悪い狭量な勘違いマニアにそういう人がいる事は知っているが)
 だがゲームが嗜好品である事は誰もが認めざるを得ないだろう。

 完成度は認める、よくわかる。だがこの日本で、万人に勧めようとは思わないのも事実。
局、人を選ぶゲームなのだ。アンタの国じゃあチャンピオンでも、ここじゃあ舞台の真ん中
には行けないぜ。
 おっと、ファンは怒ったかもしれないな。だが4巻まで遊んだ感想はこれで決まっている。口先
で説明されても、この先の現物を見でもしない限りは変わらんよ。見せるためには企画
を纏めてどこかの出版社で交渉するのがお勧め。発売日が決まったらどこかで告知してくれ。
頼んだぞ!

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