執筆過程記

 今作「バリアントナイト−魔眼の騎士−」は、前2作以上に紆余曲折を経て完成した。作者的
には非常に思い出深い7年間になったので、その過程をここに記録しておこうと思う。
 無論、全てを記しているとだらだらと退屈な物になるので、あくまで大まかな流れである。

100億年前

 ビッグバン。無のゆらぎを経て宇宙開闢。

2009年 4月

 剣と魔法のファンタジー世界で次の作品を書こうと心に決める。
 主人公は骸骨剣士、魔物に占拠された廃城を彷徨うカッコイイ物語を考案。編集S氏へ送
る。

 主人公が骸骨剣士のため、HPは「骨ポイント」という数値で管理。最大HPの概念は無く、回
復するという事も無い
 ダメージを受ければ減少するが、敵を倒せば相手の骨をえぐり出して自分へ装着する事で増
加させる事が可能。ボス級の敵を倒せば特別な骨格を奪い取り、翼を得たり腕が増えて阿修
羅像みたいになれたりと、個性的な主人公にできるのではないかと可能性を見出していた。

 没った。

 ほぼ同時に送っていた別案の「少年騎士が己の出生ゆえに戦いへ巻き込まれる話」にはO
Kが出た。
 こっちが後に「バリアントナイト」となる。

2009年 5月

 プロローグとルール、序盤だけ作る。
 この時はほぼ一方向にストーリーが進行し、途中で2〜3分岐を繰り返すスタイルにするつも
りだった。
 つまり昔のファイティング・ファンタジーシリーズみたいな感じだった。

 そもそも出発点が「俺の作ったファイティング・ファンタジー」であった。
 だから戦闘方法は技術点+2d6で、技術点差でゲームの難易度が完全に確定する方法を
とっていた
 あの方式がどうにも好きでは無いので、自分が使う事にしたのだ。
 そのうえで、獲得する経験値=受けたダメージというルールにしていた。経験値を消費する
事で能力値が上がり、各種スキルも得られるという形にしたのだ。
 技術点が高い者は、安定してゲームを進められる。
 技術点が低い者は大きいリスクを背負わされるが、生き残ればやがて高技術点に追いつ
き、多くのスキルを得て大器晩成する。
 そんな設計を目論んでいた。


 ここから一時期ぶんのメールを紛失したので、詳細が曖昧になる。


たぶん2010年ごろ

 編集S氏と意見が正反対になる。

 羽根が生えて飛んだり、刃物みたいな鰭が生えて大切断したり、頭からハイメガキャノン撃っ
たりする主人公が戦闘中に高速再生しながらラスボスをブン殴る話が完成しかけていた。
 だが編集側は「こういうのいいから」と嫌そうな反応。

 主人公が「俺もまた怪物であったのか……」とラスボスの屍を踏みつけながら白々しくカッコ
つけるカッコいい話は、どうもお気に召さなかった模様。
 あとダメージ受ける毎にいちいち経験値欄に記入するのも面倒だと指摘される。肉体強化の
ため、あえて罠に頭を突っ込む斬新な主人公だったのだが……。

 数値管理と戦闘とダンジョンハックはできるだけ減らそう、というのが編集側の意見。
 どうもサイコロと数値管理はやめて、選択肢だけの「分岐小説」の方向で考えたいようだっ
た。

 第一次・バリアントナイト没事件。

2010〜2011年あたり

 この頃、もはや能力値の大半が消え失せ、HPぐらいしかなくなる。
 敵ごとに「倒すために消費するHP」が設定されているだけで、サイコロさえなくなりランダム性
は完全排除された。
 主人公の能力も大幅に変更……というかフレーバー以外の何物でもなくなる。

 この頃の案がそれ以前より良いか悪いかはわからない。
 だが今よりは確実に悪いと断言する。
 自分が客なら、これを出されても遊ぶ気にはならんので。

 「異種族」「外国人」程度のものしかいないというのは、せっかく架空の異世界を舞台にして
いるのに勿体ない話だ。
 変身していろいろ生える予定だった主人公が、触角以外全部取り上げられてしまい、個人的
には非常に残念な奴になってしまっていた。

 そんな内容ではあったが、なんとエンディングの手前までは書いた
 結果的に、この案で考えたストーリーの大半が完成品に採用されている。
 物語的には、ここでほぼできていた事になる。

 だが結局、この時の案も没となる。
 内容や方向性は関係なく、単に出版社側がこの作品を手掛ける余裕を無くしたから
だ。

 第二次・バリアントナイト没事件。

2013年あたり

 魔人竜生誕がアプリゲームになる。
 今作とは別に関係ないので割愛。

2014年あたり

 確か編集S氏がS社をやめたのがここらへん。
 もちろんこの作品は無かった事になった。

 ちょっと残念だったが、まぁ諦めはついた。
 正直に告白するなら、むしろよくここまで付き合ってもらえたもんだと思った。
 今だから白状してしまうが、客観的に考えたら魔人竜直後に切られても何一つ不思議の無い
存在だったと自分の事を考えていた。
 もし自分が編集側だったら(以下己に都合が悪いので割愛)。

 まぁ良い思い出になった。
 めでたくもあり、そうでもなし。

2016年始め

 新年になってほどなく、編集S氏からメールが届く。
 なんとゲームブックや小説を電子書籍で販売するサイトを立ち上げるとの事。
 これが「幻想迷宮書店」であった。

 自作もそこにラインナップしたいとの事だったので、無論承諾。

2016年 2〜5月

 過去の2作を、電子書籍用に修正。
 片っ端から手を加えたので、いろいろと手がかかる。
 許可は得たし。俺は悪くねぇ。俺は悪くねぇ。

 この時点で、無かった事になっていた「バリアント」の再始動も視野に入れようという事になっ
ていた。
 というか、まぁやろうやという事になっていたと思う。

 バリアントナイト、奇跡の復活。

2016年 5月

 ここから本格的に「バリアントナイト」が再開する。
 だが凍結期間の4〜5年ほどの間に、この作品は自分の好みから大きく外れた事もあって、
今から手間かけてやるのは気が乗らなくなっていた。
 この事を正直に告げる事にする。

 編集S氏も薄々感じてくれていたようで、それならまぁ仕方がないか……とあっさり承知してく
れた

 復活した直後に、第三次・バリアントナイト没事件

2016年 5月(2)

「バリアントナイト」を没にしたはいいが、じゃあ何をするかという事で宙ぶらりんになる。
 同じような無駄足を避けるため、編集S氏に「没にした作品から引き継ぐべきところ」を訊ね
る。

 どうやら、ストーリーとキャラと展開はOKだったらしい。

 それを全部残したら「作り直し」と称するのか疑問だ。
 ルール・システム部分だけいじった方が早いな。

 HPとフラグ記入しかないシステムを「サイコロふって戦えるようにしたいんですけど」と打診。
 許可が出たので、以前ほど細かくしない事を前提に考え直す。

 本当に起き上がりこぼしみたいな作品だ。

その後

 HPとダメージ制はやめようという話になり、被弾回数と撃破されるハードルで耐久性を管理
する事にした。

 また移動・探索の制限を体力で管理する事に決定。無制限だと、全部まわるに決まっている
からだ。
 だからといって完全に罠の訪問先を用意すると、単にそこに行かなくなるだけで、物語の幅
が出ているとは言い難いので。
 だったら一章ごとに行ける場所の数を縛るしかないな、という考えである。

 ここらへんの細かい所を決めると、後は今まで作ったストーリーパートを整理するだけの作業
だった。
 まぁ完全に「組立作業」になったわけでもないが。
 最終エリアは、昔はここだけダンジョンにしようとしていたのだが、この時期に作り変えて決定
稿としたのである。
「ここで唐突にローラー作戦が始まるのも……」というのは編集S氏の弁。

こうして

「バリアントナイト」は完成した。
 やっとかよ。
 まぁ今どきゼロから項目数・数百のゲームブックを作るとなるとこんなもんかもしれん。

 文章にしてみると、最後はなんかあっさりしている感があるが、結果的には何年もかけてちょ
っとずつ作ってきたので、最後で急にごたごたが起こるのも返って不自然だろう。

 この作品が一人でも多くの読者を楽しませる事を願うばかりである。

おしまい

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