作品コンセプトや舞台世界について

 その昔、ゲームブックといえば剣と魔法のファンタジー世界だった。これは当時の
ブームのせいもある。少なくとも国産ゲームブックで大手勢力だった創元文庫と社会思想社、
富士見文庫はそうだ。双葉社はファミコンゲームのゲームブック化を選択したので違ったが、
それでもオリジナル作品にしてファミコンゲーム化の企画まで持ち上がっていた(残念ながらポ
シャッた)作品「少年魔術師インディ」はファンタジー物だった。
 創土社が復刊したゲームブック屈指の名作「ソーサリー」シリーズもまた剣と魔法のファンタ
ジー世界だ。

 自分もファンタジー世界は大好きである。オークが棍棒を振り回し、モヒカン頭のドワーフ戦
士が斧でそれの頭を叩き割って大人しくさせ、そこにトロールが涎をたらしながら襲い掛かり、
そのピンチに顔色の悪い年齢不詳の魔術師が呪文を唱えてトロールを爆死させる光景を思い
浮かべると年甲斐もなく興奮してくる。

 だからこそ、あえて「剣と魔法の」ファンタジーは外して応募作を作った。
 今さらソーサリーの劣化模倣品はいらないだろうし、自分は鈴木直人にはなれまいから。

 じゃあ、どんな舞台を選ぶのか。考えましたともいろいろと。
 後追いしないからこそ先駆者が何をしているのか考える必要がある。押入れの
奥から過去の名作を引っ張り出して読み返しあれこれ悩む。名作が名作たる所以は何か、い
くつか目をつけた。

 魔法に熟達すればするほど直接戦闘の回数が減るソーサリーやパンタクル。ブラッドソード
の盗賊は機転と狡猾さをもって襲いくる強敵を回避する。力押しが不器用な愚作であり、ゲー
ムに習熟する事でその回数を減らす事のできる作品がある。

 OK,ならば「習熟するほど力押しの効率が良くなる」ゲームにしてやろう。

 運命の森でヤズトロモに襲い掛かるとカエルに変えられ、パンタクルの阿修羅を倒すために
は隠された魔法を見つけ出し習得する事が必要だ。主人公は強くとも強すぎず、見境いなく戦
うだけでは決してゴールできない。これもまた名作の特徴なり。

 よーし、主人公が最強でどのNPCよりも強くて敵を見れば即攻撃という展開で
も成立する話を考えようじゃないか。

 ここまでで既にバトル中心である事は決まる。とにかく強い主人公が同じぐらい強い敵と一般
人立ち入り禁止レベルの戦闘を延々と繰り返す話になるのだ。こんな展開が許される世界な
んぞ、そうそうある物じゃない。
 この後、自分は超人バトルヒーロー物を選んだのだが、他のストーリーが浮か
ばなかったと言っても別に言いすぎではないな。

 ジャンルが決まればそれに沿ってシステムを決める。
 まず所持金とアイテム、どんなゲームにもありがちなこの二つの要素を完全にオミットした。
仮面ライダーは背負い袋を携帯しないしウルトラマンは倒した怪獣から金目の物を漁ったりし
ない。
 だがゲーム進行を管理する必要はあるので、キーナンバーやアルファベットチェックなどを参
考に進行管理表は作っておく。これがフラグマトリクスとなった。

 能力値のうち3つまではすぐ決まった。攻撃力と防御力、生命力(HP)である。この時点では
必殺技を使って戦う事までは考えていたものの、具体的にどうするか決まっていなかった。
 戦闘システムを考える。強制的に何度もやらせるのだから、ただ何回かサイコロをふってお
しまいというんじゃ話にならんだろう。やる以上はヒーロー物を再現しないと。

1:ヒーローが終始優勢である事はあまり無い。何度か技をはね返されたりする。
2:ヒーローは勢い重視の戦いを好む。さっきまで大ピンチでも、突破口を見つけた途端に敵を
滅多打ちにして最終奥義に繋げたりする。
3:ヒーローが最強技をクライマックスで放てば敵は死ぬ。

 要するにこれらの条件を満たせばいいのだ。試行錯誤の末、持久力(MPというかENという
か弾数というか)を追加。技ごとに項目わけする事を決める。結局、以下のような仕様を決め
た。

A:技を使うと持久力を消耗する。
B:技と敵に相性があり、効く技は簡単に当たるが効かない技は理不尽なほど効かない。
C:ある程度叩くと敵は致命的な隙を見せる。
D:主人公の最強技は一撃必殺だが最初から振り回せばいいという物ではない。
E:攻撃が成功する限り、主人公は敵を一方的に攻撃できる。
F:敵は連続攻撃をしてこないが攻撃力が高い。

 Bは1を再現するためのもの。戦闘開始直後は攻撃を空振りし劣勢に立ってもらおうとした。
 逆に効く技を見つければ、Eにより2が成り立つ。サンドバックとなった敵相手にリンチタイム
の始まりだ。瀕死のヒーローがやけに威勢良く敵を殴る蹴るシーンを再現しようと
いう試みが含まれている。
 CとDが3を成立させるためのものである事は言うまでも無いだろう。
 しかし、これだけだと問題が一つ生まれる。難易度の調整が難しいのだ。効く技を見つ
ければ勝てるのだから、それまで生き延びればいいだけである。負ける可能性が皆無だと弱
い者いじめをしているだけで面白くもなんとも無い。レベル70の勇者はスライムとの戦
闘を楽しめないのだ。よって敵の攻撃力で調整する事になるが、低ければ無意味で高け
ればあっさり殺され、これまた全然面白くない。
 AとFがなぜあるのか、これで理解してもらえると思う。
 「消耗する」という要素を入れ、ダメージを受けなくても間接的に追い込まれるように
してあるのだ。そして同時に一撃必殺の最終奥義を使う意味を作る。
 最終奥義が最小の消耗度なのは、これが「効率良く勝つ」ための技だからである。Bがある
以上、効く技を延々繰り返していれば必ず勝てる。最終奥義を使う意味が無い。持久力の設
定を作り最終奥義の消耗度を最小にする事で意味をもたせたのである。
 さらに6ゾロ=自動命中というどこかで聞いたようなルールを作り、勝つためのプロセスをや
りとげるだけの持久力が無くても僅かな勝機は残るようにした。
 もしこの作品の戦闘は難易度が高いと感じる方がいるなら、持久力のルールを丸
無視してしまうといい。驚くほど簡単になる筈だ。
 持久力がゆっくりと効いてくるダメージだとすれば、Fは即効性ダメージの調整だ。主人公は
連続攻撃が可能なので、タコ殴りモードへ突入する前に脅威を感じさせる必要がある。しかし
弱点を探すチャンスさえ与えず殺してしまっては理不尽としかいえない。よって敵は連続攻撃を
せず、代わりに一撃を重めに設定した。非力な敵でも5〜6発で生命力最大値の主人
公を殺せる攻撃力はこうした設計の元に設定されている。

 文章にすれば長くなるが、システム周りは結構早く決める事ができた。とはいえ、自分の狙い
が全て成功したわけではなさそうだが。
 そしてキャラクターでまたまたいろいろ考える事になる。
 
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