1〜100


「ただいま」
「あ、耕治! おかえり!」
 帰宅した耕治を明るい声が出迎える。居間にちゃぶ台を広げ、その前に姉の美由が座っていた。クセの無い長い髪に僅かに切れ長の大きな目。歳より幼く見られる事も多い顔立ちだが、それは化粧気がほとんど無いせいもある。パフスリーブのトレーナーにギャザースカートという姿を見るに、これから出かける所だったのだろう。
 だが美由の前には見知らぬ男が座っていた。黒いスーツにカッターシャツ、地味なネクタイといった服装はどこかのサラリーマンに見える。だが髪形は僅かにウェーブのかかったセミロングのレイヤー、女性受けしそうな端整な顔立ちながらこちらを探るかのような目つき等、耕治にはこの男性が会社で書類と向かい合うタイプの人間に見えなかった。
 男性は愛想笑いを浮かべ、座ったまま耕治に一礼する。耕治も頭を下げた。美由がちゃぶ台の上にあった名刺を手に取る。
「こちらさん、美術商の村釜さんだって。神棚にあったコレを買いにきたらしいわ」
 そう言って美由はちゃぶ台におかれた埃っぽい紙の箱を指差す。蓋があけられており、中に
は小さな陶器の勾玉と刀の柄が入っている。柄からは鍔が外されており、同じ箱に入ってい
た。刃や鞘はどこにも無い。
 これが安納家に伝わる家宝である事、それなのに今となっては誰もありがたがらないガラク
タである事を耕治は知っている。せめて一振りの刀のまま置かれていれば見栄えもしたのだろ
うが、壊れた状態で部品の一部だけしかないのでは箔も何もあったものではない。鬼斬りの神
刀という逸話もあったらしいが、その内容さえ今は誰も知らなかった。
「確かにこの保存状態ではあまり高額にはなりません。けれど損もさせませんよ。そうですね、
値段をつけるとしたら……」
 そう言いながら鞄から電卓を出そうとする村釜。だが美由は素早く片手を上げて制止をかけ
た。
「ちょっとストップ! 売るとは言ってません。というか、私が勝手に決める事でもないんですよ。
それは父の物なので、話はそちらでつけてもらえますか? ウチには帰って来ないんですけ
ど、住所は教えます」
「おっと、そうなんですか。それでお父さんはいつお戻りになられますかね?」
「それが……」
 村釜という男は今日中に商談をまとめたいようだ。話が長引きそうだったので、耕治は居間
を通り抜けて奥の部屋に入った。そこが耕治と美由の私室という事になる――風呂・便所を含
め部屋が四つしかない家で私室も何もあったものではないが。TシャツとGパン、その上から防
寒着代わりにカッターシャツを羽織って着替えると、耕治は家を出るため居間へと戻った。そ
れでもまだ村釜は美由相手に交渉を続けていた。美由は『イルーダ』というチェーン店のファミ
レスに勤めており、そろそろ出勤せねばならない筈である。
 美由の代わりに男の相手をするべきか。だが美由は言いたい事をはっきりと言える人間だ。
耕治がしゃしゃり出なくてもそろそろ追い出してしまうかもしれない。どうするか耕治は少しだけ
考えた。
 美由に代わって男の相手をするなら257へ進め。出かけて会社の下見に行こうと思うなら
6へ進め。


 その日の夜。安納家にはちゃぶ台を囲む四つの人影があった。二人は耕治と美由、もう二人は徹也とその祖父・源三である。流しには食器が重ねられ、ゴミ箱には発泡スチロールのパックが重ねて捨てられている。源三は市場で店屋物の屋台を出して日銭を稼いでいるのだが、毎晩売れ残りを安納家に持ってくるのだ。美由も源三と徹也が来る事を前提に夕食を作っている。貧しい二世帯での僅かながらの支えあいだった。
 夕食の後は大概テレビを見るのが常だが、この日は違っていた。美由が夕方に訪れた村釜の事を話したためである。美由は勾玉を摘み上げ、不思議そうに眺めた。
「こんな物にお金を出そうなんてね。子供の工作でも作れそうなのに」
 徹也が鍔を片手で弄びながら呆れたように言う。
「何言ってんだ、古い物だから価値あるんだろ。時間に値段がつくんだよ。女はロマンが無くていけねぇや。だいたいこのゴミが銭になるんだから疑問なんかいらねぇだろ。まぁこの箱全部で百円ぐらいかもしれねぇが」
「そうだねぇ。古い物には由緒があるねぇ」
 徹也の言葉に、源三が穏やかに微笑みながら頷く。何か言い返そうとしてた美由が、タイミン
グをはぐらかされて口篭った。源三はいつも物静かで、怒鳴ったり大笑いしたりした事が無い。
そして徹也が近くにいる時はいつも微笑みながら、何を言っても相槌をうつのだ。
「ま、ウチの物じゃないから俺らにゃ関係ないけどよ。あんまりぼったくってやるなよ? こんな
物で札一枚でも要求したら犯罪だぜ。ブタ箱行きでも文句は言えねぇな」
「あのね、好き放題言って……」
「そうだねぇ、ウチにはこんな物は無いねぇ」
 調子に乗る徹也。言い返そうとした美由がまたも途中で源三にはぐらかされる。その様子が
可笑しくて、つい耕治は笑ってしまった。それを横目で見た美由が、矛先を変えて耕治の肩を
引き寄せた。
「ちょっとぉ。姉ちゃんの助っ人をするべき所でしょ? 耕治は困っている姉ちゃんを見捨てる
の?」
「ごめん。次はそうするよ」
 拗ねたように言う美由に、耕治は苦笑するばかりだ。

 居間にチャイムの音が響いた。玄関の呼び鈴である。この時間、安納家に来客などほとんど
無い。玄関の一番近くにいた源三が腰を上げる。
「儂が出るよ。みんなは座っときなさい」
 そう言って玄関へ向かった――といってもほんの二、三歩の事だが。靴も履かずに手を伸ば
し、磨りガラスの嵌った引き戸を開けようとした。25へ進め。


 ここは長屋の前の道。街の中心から外れているうえに裏通りなので、街灯の数も少なく周囲
は暗い。長屋の向かいは古い貸し倉庫になっているので家も少ない。いわばここは下町の陰
……その上ここにも既に霧が立ち込めていた。それにどこからか不快感と圧迫感を伴う気配
が漂っている……。
 状況記録値Mを確認せよ。それが30以上なら110へ進め。
 そうでなければどこか安全な場所を探して移動すること。
 安納家へ入る事もできる。そうするなら118へ進め。
 秋月家は電灯が消えたままだ。ここへ入るなら405へ進め。
 長屋には空家もある。戸は閉まっているがその気になればすぐこじ開けられる。ここへ入る
なら112へ進め。
 長屋の隣は小さな一軒家だ。ここには野々宮一家三人が住んでいる。一人娘の和子とは歳
が離れているので付き合いは無いが、それでも小学生の時は毎朝一緒に集団登校していた
ので面識はある。安納家とは顔見知り程度の間柄だが、事情を話せば匿って貰えるかもしれ
ない。ここを訪ねるなら267へ進め。
 この通りから出る事もできる。街の中心に近いのは東だが警察に近いのは西だ。東へ向か
うなら428へ、西へ行くなら308へ進め。


 全ては終わった。この世ならざる怪異の前に、神秘の武器を継いだ者は息絶えたのだ。彼
の短かった人生も家族への想いも既に化け物の餌である。
 この結末に不満があれば、当然始めからやり直す事ができる。そうするなら能力値を決めな
おすこと。さらに生神力を増やした状態で再開できる。現在の生神力に、状況記録値A
と同じ値を加えること。これが再開した時に始めから持っておける生神力だ。記録用紙を
修正して1へ進め。
 ここらでやめる事にするならそれもいいだろう。トップページへ戻れ。


 それからの村釜達は素早かった。長屋付近に残っていた化物を見つけ出して一掃し、ケガ
人や死者は集団の中にいた医者や警官が対応する。この集団には様々な職種・技能の持ち
主が所属しているようだった。気にならないでもなかったが、耕治には彼等をあまり詳しく観察
している余裕はなかった。
 美由が体調を崩して寝込んでしまったからである。

 数日後。安納家には徹也と村釜も集まっていた。村釜が輪になって座った面々を見渡す。
「さて、決心してくれたかな? 俺達が何者なのかは前に説明した通りだ。ゆがみ踰神と戦う人
間の組織・天原教に協力してもらいたい。君達が『神工』を持つ限りは今後も踰神に組する物
達から狙われる可能性がある。それなら力を合わせた方が互いに助かる筈だ。さて、質問
は?」
 耕治が手を上げる。
「踰神って具体的に何なんですか?『あの化物どもは踰神の信徒とそれが生み出した化子
魂!』とは言われましたが、それ以上の説明をしてもらってません」
「あれ? そうだっけ? 悪い悪い。一言で言えば『邪神』だ。邪悪といっても悪企みはしないが
ね。何せ奴等は破壊の権化みたいな物、どこか地の底深く潜んで天変地異を引き起こし、考
えなしにひたすら破壊だけを撒き散らす。それに必要なエネルギーを集めるための手足となる
人間がいてね。それが踰神の信徒どもさ。半分人間をやめてるせいか摩訶不思議な魔力をも
っている。暗躍するのは主にこいつらさ。で、その信徒が適当な生き物を材料に作り出すのが
かすだま化子魂。こいつらは凶暴な獣みたいな物だし、たいして強くないが、何せ消耗品みた
いに作られるから面倒なんだよな。とはいえ流石に無尽蔵に作れるわけじゃないらしいけど。
で、今活動している踰神の信徒どもは、人間社会の裏で『イン=ダク』と名乗る組織を作り、踰
神を活性化するべく暗躍している。俺らも何度か交戦していて、今回はこっちの行動を察して
先手を打ってきたんだな」
 村釜の説明を聞き、今度は美由が尋ねる。
「それと戦っているのが天原教で、とある山里に本拠地を構えていると。その村の住人のかな
りの人が構成員で、必要に応じて全国へ出かけるんですよね。で、なんで宗教団体なんです
か?」
「もちろん税金対策さ。それに宗教団体なら、何か大掛かりな集会を開くときも『宗教活動です』
で大概の説明はできるからね。例え中身が踰神やその信徒と戦うための集団でもな。ま、一
応、教義みたいな物も用意はしてあるよ。天地自然と共存共栄する事が人間のあるべき姿だ
とか、古き山野の神々を信仰する精霊崇拝ですとか、野菜にはできるだけ農薬を控えようとか
……俺は対外広報部の人間じゃないから詳しい説明はできないけどな」
 村釜の話に一応頷いた後、耕治がもう一度口を開いた。
「そして踰神と戦うための武器が『しんく神工』だと」
「その通り! 邪神がいれば善き神々もいる。何でもブッ壊されちゃかなわないと思った神様達
が作った武器を『神工』と呼んでいるのさ。古い物になると、それこそ神話の時代に作られたら
しいね。何せ説明不可能な魔力・霊力なんて物を持っている敵が相手なんだ、普通の武器じゃ
通用しない事も多い。だが『神工』は例外なく踰神やその信徒と戦うために作られた武器だか
ら確実に有効なんだ。それの存在を調査してできる限り手に入れるのも、天原教の仕事の一
環になってるのさ。さてさっきから静かな徹也君、君は何か質問はないか?」
 なぜか調子が良くなってきたようで、村釜が徹也に尋ねた。徹也が横目で村釜を見る……と
いうより睨みつける。
「じゃあ聞こうか。なぜ耕治の家にあった『神工』を手にいれるのにモタモタしてたんだ? 俺達
にとっちゃぶっちゃけガラクタ、それこそ盗んでも良かった筈だ。ちゃんと買わないと気がすま
ないなら見張りをつけても良かっただろう。『神工』の持ち主に実演させて信じさせる方法もあっ
たかもしれねぇ」
 徹也の言葉には明らかに批難と恨みが込められていた。場の空気が一気に変わり、村釜が
一転して真面目な顔になる。
「手緩かったのは本当かもしれない。だが非合法な手段は最小限にしたいし、こっちの人数も
無限にいるわけじゃない。『神工』もそんなに奇妙な物ばかりじゃない。耕治君の『無尽(むじ
ん)』や君の『幻陣(げんじん)』なら別だが、俺の『粒手(つぶて)』みたいに見ただけじゃそれと
わからない物の方が多いんだ」
 そう言って村釜はポケットからいくつもの小石を取り出した。透明度の高いガラスのような石
片だが、一番大きな欠片を叩いて砕くと幾つもの欠片が割れて落ちる。村釜がこの小片をエア
ガンの弾にして化子魂へ撃つのを耕治は見た。化物に撃てばその皮膚を紙の様に容易く貫通
していたが、これを他の物に撃っても魔力を有する武器などとわからないだろう。
 徹也は部屋の奥へ顔を向けた。そこには源三の遺影が置かれている。
「だから爺ちゃんが殺されたのも仕方ないってか。半分とばっちり食らったも同然なのによ! 
よくわかったぜ。俺は俺でやらせてもらう」
 徹也は立ち上がった。大股で玄関へ向かい、そのまま出て行く。慌てて耕治は後を追った。
美由も頼りない足取りで着いてくる。だが玄関を出た時、既に徹也の姿は無かった。
「徹也、一人でどこへ行こうっていうんだ……」
 耕治がそう呟いた時。後ろで美由の小さな呻き声が聞こえた。振り向いた耕治の目に、青い
顔で地面に座り込む美由が映る。驚いて駆け寄り、姉を抱え起こそうとする耕治。その時、美
由の首筋が見えた。皮膚の一部がやや透き通った白に変色している。その箇所は先日化物
に噛まれた部分である。33へ進め。

14
 やれやれ、ここに来ちまったのか。このいやしんぼうめ、どうせ何かめぼしいものでも落ちて
いると思ったんだろう。悪いがここにあるのはちょっと錆びかけたトンカチと微妙に曲がった
釘、そして不法投棄された木の板ぐらいのもんだ。もちろん、お前の棺桶を作るための材料と
してわざわざ拾ってきてやったんだぞ。さあ、棺桶を作って中で寝てるといい。飽きるまでな。
 寝ているのも暇だろうから、その間に一つ覚えとけ。いいか、このゲームは状況記録値に数
字をメモして進めるんだが、パラグラフジャンプに使う数字は必ず10の倍数だ。これ
さえわかっていれば、製品版で正確な数字を記録し損なっても飛び先で困る事はない。なんな
らズルして飛んでいく事もできるぞ――話がどう繋がっているのかわからなくなるだろうが、な
に、お前ならそんな事をそもそも気にしやしないだろうさ。
 そろそろ寝るのにも飽きたか? だったらさっさと飛び起きて最初からやり直すんだ。今度こ
そ上手くやるんだぞ。

25
 耕治の目の前が霞んだ。何が起こったのかわからず、思考が一瞬停止する。白い――煙
か、霞か、それとも霧か。頭を巡らせ、耕治は部屋の中に霧が篭っている事を知る。美由と徹
也も瞬きを繰り返すばかりだ。何が起きたのか、誰もが理解できないでいた。
 物音が聞こえた。霧の向こうから水を吸うような音がする。玄関の方だ――そう気づいた時、
三人の側へ霧の中から一つの影が倒れ込む。
 源三だ。その胸には指が入るほどの穴が開き、僅かに血が零れていた。目を見開き、血の
気は全く無い。
霧の中から誰かが近づいてくる。派手なガラシャツを着て金のネックレスを着けた人相の悪い
男だ。夜の繁華街を歩いているチンピラにしか見えないが、その男は異様な物を二つ従えてい
た。片方は何本もの触手をのたうたせている青白い肉塊。触手には赤い筋が通り、先端には
吸盤状の口が。もう一つは宙に浮く半透明の心臓……巨大な唇がごとき裂け目を持ち、一本
の鞭毛が伸びていた。
男はちゃぶ台に置かれた箱を見ると汚い歯を見せて笑った。
「あれか。さっさと持っていかないとな。ついでに……」
 男がポケットの中で何かを弄る。二つの肉塊が耕治達に迫った……。

 悲鳴があがった。ようやく我にかえった美由の声である。ほとんど同時に徹也が弾かれたよ
うに立ち上がった。微動だにしなくなった祖父へその名を呼びながら駆け寄ろうとする。それに
触発されたか、青白い肉塊が徹也へ触手を伸ばした。徹也は血走った目を向ける。
「邪魔をするな貴様ァ!」
 煌きが走った。幾条もの輝く弧が宙を駆け抜ける。徹也の周囲を渦巻き、光の軌跡が肉塊を
なぎ払った。肉片を撒き散らしながら塊が床に転がる。
「あぁ!? なんだよこれは!?」
 驚愕の叫びをあげてガラシャツの男が退いた。唖然とする耕治の目に、徹也の握る家宝の
鍔が映る。それが薄ぼんやりと縁を赤く光らせている事も、徹也の瞳が同じ色に染まっている
事も……。

 耕治のすぐ側で悲鳴がまたあがった。美由が心臓に咥えられているのだ! 声にならない叫
びとともに耕治が飛びかかろうとした――が、心臓の鞭毛に打たれて無様に倒された。ちゃぶ
台をひっくり返しながら転がり、そして……304へ進め。

33
 ここでお報せしておかねばならない事が一つある。
 2008年12月12日の日記にて「表紙にいるのがヒロイン。複数だが問題ない」と書いたが、
あれは単なるミスリードだ。表紙にヒロインがいるという事、ヒロインが複数であるという事をわ
ざと誤解を招くよう書いてある。正確に記せば「ヒロインは表紙にいる。しかし後の二人
は主人公。他のキャラクターは本文を見てからのお楽しみ」という事だ。
 まぁまさか男が男を攻略してマンとガイでドッキング、とか考える人などおらんとは思うが。
 ちなみにこの作品、主人公以外のキャラクターはゲームの進行・展開の都合を優先したた
め、完璧なまでに「要素・属性」の塊になっている。「昔読んだマンガにこんな奴いたなあ」と思
われても、それは話の都合上たまたま似てしまっただけだと先にお断りさせていただきたい。
 ただし極一部の例外は除く。
 あとオマケのページにちょいとバカ書いておいたので見たい人だけどうぞ。

35
 真っ二つにされた心臓が畳の上に転がり、どろどろに溶けて崩れだした。残り半分は見当た
らないが、やはり溶けてしまったのか。化物の消滅を確認し、耕治は美由に駆け寄よって抱き
かかえるように上体を起こした。
「姉ちゃん、ケガしてるよ。ちょっと待って」
 そう言われて初めて、美由は肩を走る裂傷に気づいた。おそらく心臓に食いつかれた時に負
ったのだろう、まだ血が止まっていない。耕治は柄を握る手を溶け行く心臓へ向けた。粘液の
水溜りから燐光が立ち昇り、それが柄へと吸い込まれてゆく。生神力を6増やすこと。全て
の燐光を吸い取ると、耕治は指先で美由にそっと触れた。暖かい物が流れ込み、傷が閉じて
塞がってゆく。呆けたように自分を見上げる美由へ、耕治は静かに微笑んだ。家宝とそれが与
えてくれる能力を耕治は既に理解し始めていたのだ。美由の傷を治すために力を消耗したの
生神力を2減らす。
 これからは耕治自身の傷も生神力で回復させる事ができるが、生命力を1回復
するために生神力を2消費する。ただしこの力はある程度落ち着いた状況でなければ使
えないので戦闘中に生命力を回復する事はできない。
 なおこの能力は項目番号の下に△がついている項目で他者に対し使用する事
が出来る。そうするなら△をクリックすること(製品版では、項目番号に20を加えた項目
へ進む)ただし生神力を2消費するので、生神力が1以下の時は使う事が出来ない。また
生神力や状況記録値の変更を指示されている場合は項目を移動する前にそれ
らを済ませておくこと。
 この能力を忘れないうちに記録用紙の超能力欄に記入しておく。

 耕治は部屋を見渡した。ガラシャツの男がいない……既に逃げたらしい。化物が溶けてでき
た生臭いぬかるみは二つ。耕治が仕留めた物とは別に、徹也の側にも水溜りができていた。
そして徹也は祖父の側で膝をつき、耕治に背を向けている。耕治は徹也へ呼びかけた。
「徹也、そのまま待ってくれ。すぐに爺ちゃんの傷を塞ぐから。下手に触ると傷が開くかも……」
「……もう、死んでるぜ……」
 徹也のその言葉に、耕治はぎょっとして思わず黙った。受け入れ難い内容もさる事ながら、
その声は鳥肌が立つほど深く暗い。徹也が立ち上がった。大股で玄関へ向かう。耕治は呼び
とめようとしたが、それを見透かしたように徹也が先に口を開いた。
「生かしちゃおけねぇ……。仇は討つ」
 徹也の持つ鍔もその瞳も、赤い輝きが収まっていない。一方、耕治の握る柄から輝きは失
せ、瞳もいつも通りに戻っている。気圧された耕治は家から出て行く徹也を黙って見送る事し
かできなかった。
ここで徹也の能力を決める。それを記録用紙に書き込むこと。
 命中値は耕治より1高い。
 敏捷度は3、攻撃力は6である。耕治の点数とは関係ない。
 生命力76から命中値を4倍した数を引くこと。28〜36の値になる筈だ。それを
徹也の生命力とする。
 ただし、今はこれらの値を決めるだけだ。実際にこれらの能力値が意味をもつのは今後の
話――徹也が再び現れた時の事である。

「耕治、何がどうなってるの? 爺ちゃんは……爺ちゃん、死んだって? なんで? 一体どう
すればいいの!?」
 耕治の肩を掴み、美由が混乱しながら訴える。その言葉に耕治も我にかえった。同時に空気
中を漂う異様な圧迫感を捉える。先刻倒した化け物の同類が、まだこの近所をうろついている
……なぜかそれがわかった。
 外に出て安全な場所を探すなら美由とともに家を出ること。その場合は3へ進め。警察に連
絡するならば433へ、源三の屍を調べてみるなら126へ進め。

38
 なりふりかまわず、耕治は全力で走り出した。後ろでなにやら怒鳴り声と争う物音が聞こえた
が振り返りもしない。村釜が来たという事は彼の問題なのだろうと思う事にし、そのまま家へ走
った。家の中へ駆け込むと、エプロンをつけて台所にいた美由が目を丸くする。
「お早いお帰りね……どうしたの、そんなに慌てて」
「ただいま。ちょっと近所で喧嘩に出くわしたんだ。巻き込まれそうになったから逃げてきた。…
…あれ? 姉ちゃんこそ、仕事は?」
 汗だくの耕治へ、美由は可笑しそうに微笑みかける。
「今日は非番だからお休み。で、巻き込まれかけたって? 鈍くさいなぁ。じゃ、晩ご飯まで大人
しくしてなさい。変なのが来たら姉ちゃんがブン殴ってやるからね」
 そう言っていたずらっぽくウインクし、鼻唄混じりでコンロの鍋へと向き直る。耕治は汗を拭い
ながら今日はもう家に居ようと決めた。無いと思うが、あの男がもう一度家の前に来るかもしれ
ない。そうなったら美由を守らねばならないだろう。とりあえず携帯電話はいつでも手に取れる
場所へ置いておく事にした。2へ進め。

44
 小さな光の軌跡が横に、一条の大きな閃光が縦に。光の疾走の後、男の全身がズタズタに
裂かれる。断末魔を漏らしながら男は路上に倒れた。殺す必要はないだろう……そう思って柄
を下ろす耕治。だがその眼前で、男の皮膚が溶けて流れ出す! やがて男はスーツを残して
腐臭漂う水溜りと化した。そこから燐光が立ち昇り、耕治と徹也の手にある武器に吸い込まれ
てゆく。生神力を20増やすこと。呆気にとられる耕治の横で、徹也がため息まじりに呟く。
「これで爺ちゃんの仇が一人減ったか。ま、まだまだ残りがいるけどな」
「残りってどういう事なんだ? 徹也、僕らには何もわかっていないんだ」
 耕治の問いに徹也は険しい顔のまま答えない。
○状況記録値Bを30増やすこと。
 何を言ったものか耕治が戸惑っていると、いくつもの足音が聞こえた。誰が来たのかと振り
向けば、何人もの男たちが固まってやって来るのが見える。年齢も体格も格好も様々で統一
感がまるで無い。だがその先頭にいる人物には見覚えがあった。家宝を買いに来た村釜であ
る。村釜は耕治達を――というより耕治と徹也が家宝を持っているのを見て――驚いたようだ
ったが、やがて気を取り直して軽く会釈した。
「また会ったね耕治君、美由さん。できればこんな形での再会は避けたかったんだがな。そち
らは徹也君だね、君とは初めまして。とりあえず、今の状況については僕から説明しよう」
 5へ進め。

56
 今度は角を曲がる前に村釜達と鉢合わせした。身構える耕治に、村釜は美由を指差してみ
せる。
「ちょっと待った。美由さんはそろそろお疲れの様子だけどな? 今の君に付き合って動き回っ
て、かすだま化子魂――ああ、化物の事な。そいつらにも出くわしたんじゃないか? 心身とも
に限界だろう。今は俺達と一緒に来てくれよ。な?」
 耕治は美由と顔を見合わせた。確かに美由は息も荒いし顔色も悪い。
「……わかりました。それで、どこへ行くんです?」
 135へ進め。

76
 出かける事を身振りで美由に知らせ、耕治は家を出た。だが家から出た直後、窓の側に見
慣れない人物がいるのを見かける。派手なガラのシャツを着た三〇前後の男だ。開いた胸元
に金鎖のネックレスを付けているあたり、堅気の人間とは思い難い。男は耕治と目が合うと、
バツが悪そうに背を向けて足早に去っていった。どうも窓の外で聞き耳を立てていたようだが
……。
 気になるなら後をつけてみる事もできる。そうするなら347へ進め。係わり合いになりたくな
ければ徹也の家に行くこと。333へ進め。

78
 バラバラに切り裂かれ、肉団子は生臭い水溜りと化した。そこから立ち昇る燐光が柄に吸い
込まれる。生神力を12増やすこと。おばさんと娘さんはおじさんに駆け寄る。
「お父さん! お父さん!」
 耕治もおじさんの側に寄って見た。胸がまだ上下しているので息はあるだろうが、噛み破ら
れた腕からの出血が酷い。おばさんが電話に飛びつき、半狂乱になってダイヤルを叩く。和子
の方は父親の側へ膝をつきながら耕冶を見ていた。その眼にははっきりと警戒心が見える。 
無理もない、と耕治は思った。得体の知れない武器を振り回して化物と戦う奴を見れば、普通
の人間なら警戒して当然である。知人に恐れられ、耕治はなんともやるせない気持ちになっ
た。それでも耕冶は和子に話しかけてみる。
「お願いがあるんだ。僕達も安全な所を探しているんだけど、姉さんだけでもここに置いてもら
えないかな?」
 そう言われ、和子は返事をせず露骨に戸惑いを見せる。だが彼女が何か言うよりも早く、美
由が耕治の袖を引っ張った。
「耕治、迷惑はかけられないわよ。……ごめんね和子ちゃん、お邪魔しました」
 そう言って美由は耕治を引っ張り、野々宮家から出た。 
○状況記録値Mを10増やす。
○状況記録値Rを1増やす。
 外に出ると美由は落ち着きなく薄暗い通りを見渡す。耕治の裾を握る手に力が篭った。耕治
は姉の手を握りながら言う。
「姉ちゃん。嫌がられてるのは僕だけだし、怖いならやっぱりここに居させてもらえば……」
「そ、そりゃ怖いけど……そんな状況で耕治を一人にはできないでしょ」
 ムッとした顔で言い返す美由。その言葉を聞けば、耕治にはもう何も言えない。3へ進め。

95
 突然、横の通りからばらばらと人影が跳び出てきた。驚く耕冶と美由、それ以上に驚く男。
「なんだと!? この霧に入る事ができるわけなど……そうか! 貴様らは……」
「お互い、今回は競り合いみたいになったな。ま、ここで終いにさせてもらおうじゃないの」
 先頭に立ってそう言ったのは、安納家へ家宝を買いに来た男・村釜である。男と知り合いで
あるかのような軽い口調で話している――実際、まるで知らぬ間柄でもないらしい――が、そ
の目つきは敵意と緊張で真剣そのものだ。男を睨みつけながら、村釜は懐から何か取り出し
た。見れば一丁の拳銃である。街灯の光を反射して銀色に輝くそれを、村釜は慣れた動きで
男に向けた。
男が村釜めがけ腕を振り下ろそうとした。だがいち早く村釜は引き金を引く。耕冶が思ったより
も遥かに小さな発射音が響き、男の腕に小さな穴が開いた。男は苦痛に身を捩るが、奇妙な
事に血は流れない。村釜は耕冶を横目で見る。
「加勢するぜ耕冶君。こいつが何なのか、説明は倒した後でするからな」
※村釜も攻撃に参加するので、この戦闘に限り耕冶の命中値と攻撃力に1点
加えて良い。
踰神の信徒  戦闘力8  攻撃力12  生命力24
戦って勝てば121へ、負ければ4進む。

98
 耕治はおじさんの傷に触れ、吸収した生神力をそこに集中した。傷口が閉じて血が止まる。
生神力を2減らす。傷は塞がったものの、既に結構な血を流していたのでおじさんは意識を
失ったままだ。
「耕治さん、ありがとう。でも……どうしてそんな事ができるの?」
 和子がおずおずと尋ねた。眼鏡の奥の瞳からは未だに警戒心が消えない。何を言った物か
迷う耕治の肩が優しく叩かれた。
「そろそろ行こうか、耕治。じゃあね和子ちゃん、早くお医者さんを呼んだ方がいいよ」
 そう言うと美由は耕治の手を引いて野々宮家から出る。
○状況記録値Dを10増やす。
○状況記録値Mを10増やす。
○状況記録値Rを1増やす。
 外に出た所で美由は振り向いた。耕治を見上げて微笑みを見せる。
「危ない所を助けてあげたね。よく頑張った、偉いぞ」
 胸の中に篭った嫌な物が失せてゆくのを感じながら、耕治は静かに頷く。3へ進め。

99
 ぶらぶらと二人、耕治と徹也は家路を歩く。最初にちょっとため息まじえ、徹也がぽつぽつと
話し出した。
「登場時とか初期設定では同格のチームとかキャラ間でよ。話が長くなると、大概は扱いに差
が出るよな。時々、致命的なぐらいに」
「でも、完全に平等ってのは難しいよね。動かし易いとか難いとかもあるだろうし……」
 そう答える耕治だが、徹也はどうも不満があるようだ。
「ああ、あるだろうよ。けどな、自分の気に入った奴が微妙だったり残念だったりすると、なんか
こう、ヘボ批評家になって一言ブチたくもなるじゃねえか」
「うん、まぁ……けれど実際、三人以上になったらもう完全に平等は不可能なんじゃないか
な?」
 耕治が言うと、徹也は舌打一つして足元の小石を蹴った。
「ああ、そうだろうよ。同じ最強軍団員なのに3対1で3が追い込まれるとか、前作主人公に作
品ジャックされて最終決戦は回し蹴り一発で退場とか、そのぐらいの差は出るんだろうよ。俺
が気にいると大概は微妙臭が漂いやがる。あと小さな理由だが、優遇される奴がいつも女に
モテそうなのも気に食わねえ」
「ああ……そうだね……」
 答えが初めから決まっている話に何言っても無駄だ。そう悟って耕治は適当に相槌をうっ
た。それに気づかないのかそうでもないのか、徹也は深刻そうに眉を寄せる。
「まさか、明日は我が身って話にゃならないだろうな?」
 耕治はあえて何も言わなかった。二人は足並み揃えて、家の前の角を曲がる。14へ進め。

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