101〜200

101
 真っ二つになった肉塊は畳に落ちて溶けた。そこから燐光が立ち昇り、耕治の柄に吸い込ま
れてゆく。生神力を6増やすこと。徹也の方を見れば、既に全ての化物をズタズタに切り裂
いていた。ふんと鼻を鳴らし、耕治の方へと大股で歩いてくる。気圧されながらも耕治は徹也に
声をかけた。
「徹也、これからどうするんだ? 一人じゃ危ないよ?」
「そうかい。だが俺は爺ちゃんの仇を放っておくつもりはねぇ。まだこの近くにいる筈だ。お前は
姉ちゃんを守るんだろ? どこか安全な所を探せよ」
 そう言って徹也は耕治と美由の横を通り抜け、通りへ出ようとする。耕治は慌てて呼び止め
た。
「徹也、僕たちと一緒に……」
「一人で行く。俺が人を殺す所を、お前に見られたくねぇ」
 振り向きもせずそう言って、徹也は一人で通りへと去った。
○状況記録値Mを10増やす。
○状況記録値Qを1増やす。
「耕治、徹也があんな事を言って……」
 美由が怯えながら耕治に言う。耕治は何も答えなかった――徹也が本気だと感じたからだ。
外へ出て3へ戻れ。

104
 光の軌跡が走り、肉の断ち斬れる鈍い音が聞こえた。異形の腕が路上に落ち、男が膝をつ
く。殺す必要はないだろう……そう思って柄を下ろす耕治。だがその眼前で、男の皮膚が溶け
て流れ出す! 断末魔と呻き声……やがて男はスーツを残して腐臭漂う水溜りと化した。そこ
から燐光が立ち昇り、耕治の握る柄に吸い込まれてゆく。生神力を20増やすこと。
 しばし呆然と立ち尽くしていたが、耕治は新たな気配の出現に気づく。いつのまにか美由の
側に徹也が立っている。驚く耕治や美由へ視線を向けず、徹也は水溜りを見つめていた。
「先を越されちまったな……。これで爺ちゃんの仇が一人減ったわけだ。ま、耕治がやってくれ
たのなら文句はねぇよ。まだまだ残りがいるわけだしな」
○状況記録値Bを30増やすこと。
「残りってどういう事なんだ? 徹也、僕らには何もわかっていないんだ」
 耕治の問いに徹也は険しい顔のまま答えない。物心ついてからずっと一緒にいた筈なのに、
耕治には徹也の心境がよくわからない。何を言ったものか耕治が戸惑っていると、いくつもの
足音が聞こえた。誰が来たのかと振り向けば、何人もの男たちが固まってやって来るのが見え
る。年齢も体格も格好も様々で統一感がまるで無い。だがその先頭にいる人物には見覚えが
あった。家宝を買いに来た村釜である。村釜は耕治達を――というより耕治と徹也が家宝を持
っているのを見て――驚いたようだったが、やがて気を取り直して軽く会釈した。
「また会ったね耕治君、美由さん。できればこんな形での再会は避けたかったんだがな。そち
らは徹也君だね、君とは初めまして。とりあえず、今の状況については僕から説明しよう」
 5へ進め。

110
 耕治は化物の気配を感じて反射的に美由を背にやった。霧の中、一人の男が耕治の方へ
歩いてくる。男はカジュアルなスーツに身を包み、長い髪に香水を微かに漂わせている。シャツ
の胸元を大きくはだけさせ、切れ長の目で耕治を品定めするかのように見ていた。ホストなの
かチンピラなのか判別し難いが、気配の元は間違いなくこの男だ。
「『しんく神工』を使い出した少年というのは君か。それは俺達にとって、あっては困る物だ。す
まないが渡してもらうよ」
 そう言うと男は右手を振った。ずるり、とその腕が伸びる。袖がはちきれ、縮れた紐が絡まり
あったかのような触碗が露出した。指と掌は肥大化し、人間の上半身ぐらいなら一握りできそ
うだ。美由が耕治の背後で悲鳴をあげる。
「これは!? 貴方はいったい……?」
 耕治の問いかけを無視し、男は笑った――顔の皮膚が透き通り、下の血管が透けて見えて
いる。
「泣こうが喚こうが誰も来ないよ。この霧の中に普通の人間は入れない。近くに来ても入ろうと
すら出来ない――知覚できないんだ。この中は既にこちらのテリトリー……この世から切り離さ
れかけている」
 そう言うと男は右手を叩きつけて来た。美由を庇いながらも間一髪で避けた耕治……その足
元でアスファルトが豆腐のごとく砕かれる! 冷や汗を流す耕治の前で、男の腕が蛇の頭のご
とく鎌首をもたげる。
踰神(ゆがみ)の信徒は化子魂(かすだま)どもとわけが違う。観念しろ、少年」
 状況記録値Dが11以上なら348へ進む。
 そうでなければ状況記録値Uを確認し、41以上なら325へ進むこと。
 それにも当て嵌まらなければ状況記録値Nを確認し、21以上なら95へ進め。
 これら全てに該当しないのならば、敵の能力は次の通り。
踰神の信徒  戦闘力8  攻撃力12  生命力24
 美由を放って逃げる事はできない。決着がつくまで戦え。戦って勝てば104へ、負ければ
進む。

112
 空家の戸に手をかけて、耕治は鍵が既に開けられている事に気づいた。既に誰かが入って
いる?
 状況記録値Mを確認せよ。10なら235へ、20なら245へ進め。
 そうでなければ耕治は小さな話し声が中から聞こえる事に気づく。少しだけ戸を開けて中を
覗いた。霧の中、耕治は男の姿をはっきりと捉える。携帯電話で誰かと話しているようだ。
「……いや、だって聞いてませんよ、そんな話は! ブツを盗ってくりゃいいだけの簡単な仕事
だって言ったじゃありませんか! え?……あ、いや、滅相もない。すんません。でもこれ以上
は俺じゃあ……え? 金田さんが来るんですか? 違う? ああ、来るのは三家さんですか。
わかりました、待ちます」
 男は電話をきってため息をついた。それが化物に源三を殺させたガラシャツの男である事を
知り、耕治は表に美由を残して家に踏み込む。男は小さく悲鳴をあげて振り向き、冷や汗を流
しながら後ずさった。耕治は青く輝く瞳で男を睨みつける。
「仲間がいるみたいだね……それも何人か。詳しく聞かせてもらおうか。爺ちゃんが殺されてい
るんだ、喋らないなら無理矢理口を割らせてもらう!」
 だが男はポケットから何かを引っ張り出し、床の上に投げた。蚯蚓のようにひょろ長い半透
明の肉塊である。それは二つに分裂すると急激に膨張し、目の無い大蛇と化した。牙の生えた
巨大な口を開けて耕治へ跳びかかる!
触手?  戦闘力8  攻撃力2  生命力6
 逃げるなら家を飛び出して3へ戻れ。戦って勝てば376へ、負ければ4進む。

118
 ここは安納家の居間だ。霧に覆われた部屋の片隅では、源三の亡骸が仰向けに横たわって
いる。美由が耕治の背に隠れるように寄り添った。姉が小さく震えるのを感じながら、耕治はこ
こでどうした物かと考える。
 警察に電話してみるなら433へ進め。源三の屍を調べてみるなら126へ進め。家を出るな
3へ進め。

121
 光の軌跡が走り、肉の断ち斬れる鈍い音が聞こえた。異形の腕が路上に落ち、男が膝をつ
く。殺す必要はないだろう……そう思って柄を下ろす耕治。だがその眼前で、男の皮膚が溶け
て流れ出す!
「しまった、体が! ああ、ああ! このままでは……」
「死ぬんだろ。あばよ」
 吐き捨てるような声がそう言った途端、幾筋もの軌跡が渦を巻いて男を切り刻む。最後の絶
叫を残し、男はスーツを残して腐臭漂う水溜りと化した。そこから燐光が立ち昇り、耕治の握る
柄に吸い込まれてゆく。生神力を20増やすこと。耕冶は声の聞こえた路地へと目を向け
た。そこから徹也が出てくる。
「先を越されちまったな……。これで爺ちゃんの仇が一人減ったわけだ。だがよ、まだまだ残り
がいる」
「残りってどういう事なんだ? 徹也、僕らには何もわかっていないんだ」
 耕治の問いに徹也は険しい顔のまま答えない。物心ついてからずっと一緒にいた筈なのに、
耕治には徹也の心境がよくわからない。
○状況記録値Bを30増やすこと。
ふむ、と村釜が少々わざとらしく呟く。
「こちらが用のある人間は集まってくれたみたいだな。そちらは徹也君だね、君とは初めまし
て。とりあえず、今の状況については僕から説明しよう」
 5へ進め。

126
 状況記録値Pが1以上ならここでこれ以上得る物は無い。すぐに118へ戻れ。
 そうでなければ耕治は源三の屍に近寄り、側にしゃがみ込んだ。両目が閉じているのは、徹
也がそうしたからか。胸に深い孔があるが、ここから血を吸われたのだろう。
「駄目か……爺ちゃん……」
 耕治にはそう呟く事しかできなかった。とうに息絶えているのは見ればわかる……蘇生の見
込みは無い。
 すすり泣きの声を耳にし、耕治は顔を上げた。口を押えながら美由が大粒の涙を零してい
る。そこで耕治は気付いた――悲しくはあるが、自分が全く取り乱していない事に。違和感を
覚えながら、耕治は周囲に目を向けた。しばらく部屋の中を見てから美由に声をかける。
「姉ちゃん、家宝はもう一つあったと思うけど……勾玉がどこに行ったか知らない?」
「え? それなら私が持ってるよ。ほら」
 突然の質問に驚きながらも美由はポケットからそれを取り出した。確かに家宝の勾玉であ
る。
「ああ、そう言えば姉ちゃんが見てたんだよね。いや、鍔にもこの柄にも不思議な力があるみ
たいだから、それにも何か無いかなって思ってさ」
 そう言いながら耕治は勾玉へ手を伸ばした。美由の掌に乗っているそれへ指先が触れる。
○状況記録値Mを10増やす。
○状況記録値Pを1増やす。
 そして生神力を6増やすこと。指先から流れ込む力の脈動に驚き、耕治は勾玉を摘みあ
げた。だがそれ以上何かが起こる気配はない。首を傾げながら、耕治は勾玉を姉へ返した。
それを受け取り、美由は不安げな顔で源三へ視線を向ける。
「それで、これからどうしよう? 爺ちゃんをこのままにしておけないでしょ?」
「そうだね……けれど今はここに居ちゃ危ないと思う」
 次第に濃くなる化物の気配を感じながら耕治はそう答えた。118へ戻れ。

135
 耕治が頷くと村釜が穏やかに笑った。
「決まりだな。とりあえず今最優先でやる事は二つあるんだ。一つは安納さん家にあった家宝
を集める事。もう一つは、この付近にいる筈の『ゆがみ踰神の信徒』を仕留める事だ」
「だったらその二つはケリがついてるぜ」
 突然、耕治にとって聞き覚えのある声が割り込む。見れば長屋前の通りを徹也が歩いてく
る! その目つきは険しく、肩口からは出血しているようだった。耕治と美由は慌てて徹也へと
駆け寄る。
「どこに行ってたの徹也、ケガしてるじゃないの……!」
「僕なら治せる。傷を見せて」
 だが徹也は二人を一瞥しただけで通り過ぎる。物心ついてからずっと一緒にいた筈なのに、
耕治には徹也の心境がよくわからない。何を言ったものか戸惑っている耕治の前で、徹也は
村釜の正面に立った。
「家宝の一つは俺が持ってる。信徒とやらはこれでさっき殺した。奴らについて、知っている事
があったら教えてもらえるか」
「それは……話の早い事だな」
 気圧されたように村釜は頷いた。5へ進め。

140
 警察でさえなかなか来ないというのに村釜があっさり来た事に耕治はそこはかとなく不気味な
物を感じた。だが耕治の胸中など知らず、村釜は安堵の笑顔を見せる。
「間に合ったようだな。それじゃ耕治君、美由さんと一緒に俺達と行動してくれないかな。もちろ
ん訳は話す。けど、君らも化物を見ただろう? 被害が大きくなる前にあれを始末しなきゃいけ
ない」
 村釜達は化物の存在を知って行動しているようだ。事情は知りたいし今は味方が少しでも欲
しい。それに自分から村釜へ声をかけた手前もある。耕治は美由を後ろに庇ったまま村釜へ
頷いた。
「わかりました。でも、何が起こっているのか後でちゃんと教えてください」
 135へ進め。

157
 肉塊が輪切りにされて転がる。そこから燐光が立ち昇り、耕治の柄に吸い込まれてゆく。
神力を6増やすこと。部屋の中を見渡し、耕治はおかしな事に気づいた。肉塊が溶けてで
きた水溜りが四つもある。二つは今耕治が倒した敵の物。ならばあとの二つは……
「徹也か……?」
 おそらくそうだろうとは思うが、徹也の姿はここには無い。
○状況記録値Mを10増やす。
○状況記録値Qを1増やす。
 見れば窓が開いている。耕治が倒した二匹はそこから入り込んだのだろう。ここに居ても安
全ではない事を悟り、耕治は外へ出る。3へ戻れ。

167
 もし状況記録値Nが21以上なら118へ戻ること。
 そうでなければ耕治は村釜という男の事を思い出す。どこか得体の知れない男だったが、欲
しがっていた家宝が狙われているらしいこの状況なら力になってくれるかもしれない。だが頼り
になるかどうかは甚だ疑問である……。物は試しと連絡してみるなら191へ進め。やめておく
なら118へ戻れ。

171
 バラバラに切り裂かれ、肉団子は生臭い水溜りと化した。そこから立ち昇る燐光が柄に吸い
込まれる。生神力を12増やすこと。
「耕治、大丈夫?」
 戦いが終わったのを見届けて美由が部屋に入ってきた。大きく頷いてから耕治は野々宮一
家の方へ振り向く。三人の誰にもケガは無いようだ。だが、三人はまだ身を寄せ合って恐れと
警戒の眼差しを向けている……耕治に対して。耕治は自分の握る家宝の柄に視線を落とす。
 無理もない、と耕治は思った。この柄に関しては耕治もほとんどわかっていない。そんな物を
振り回して化物と戦う奴を見れば、普通の人間なら警戒して当然である。耕治はおじさんに軽く
頭を下げた。
「お騒がせしてすいません。僕達も安全な所を探しているんです。姉さんだけでも置いてもらえ
ませんか?」
 そう言われ、おじさんは妻や娘と顔を見合わせた。どう返事をした物か戸惑っているらしい。
だが彼らが何か言うよりも早く、美由が耕治の袖を引っ張った。
「耕治、迷惑はかけられないわよ。……すいませんおじさん、突然お邪魔しました」
 そう言って美由は耕治を引っ張り、野々宮家から出た。 
○状況記録値Mを10増やす。
○状況記録値Rを1増やす。
 外に出ると美由は落ち着きなく薄暗い通りを見渡す。耕治の裾を握る手に力が篭った。耕治
は姉の手を握りながら言う。
「姉ちゃん。嫌がられてるのは僕だけだし、怖いならやっぱりここに居させてもらえば……」
「そ、そりゃ怖いけど……そんな状況で耕治を一人にはできないでしょ」
 ムッとした顔で言い返す美由。その言葉を聞けば、耕治にはもう何も言えない。3へ進め。

182
「別に構いませんけど、お力にはなれないと思いますよ。父に話せばすぐに了解は得られると
思いますから、欲しいのであれば早くあたられてはどうでしょうか」
 耕治の言葉に、村釜は素直に頷いた。
「そうだね。無論そうするけど、一つ頼みがあるんだ。何、僕がもう一度来るまで、あれを誰に
も売らないで欲しいだけさ。つまり予約しておきたって事だね」
「そういう事なら構いませんが……そんな人がいるでしょうか? 正直、僕にはあれにそんな価
値があるとは思えません」
 実際、耕治には家宝と名ばかりのガラクタに金を出す人間がいる事が不思議だった。だが村
釜は真面目な顔になって名刺を取り出す。
「いないとは限らない。頼んだよ。もし君の家の家宝の事で、何かがあったら僕に連絡してく
れ。まだしばらくはこの町にいるつもりだからね」
 そう言って名刺を手渡すと村釜は大通りの方へ歩いていった。それを見送りながら、耕治は
疑問を覚える。しばらくこの町にいるというのは、他に仕事があるからかもしれない。だが『何
かがあったら』とは?
 ○状況記録値Nを10増やす。
 不思議に思いつつも徹也の家へ向かう耕治。だが玄関には鍵がかかっており、既に出かけ
た事を知らされる。安納家と秋月家は空家を挟んだ隣同士なので、徹也は耕治が村釜と話し
ているのを見かけた筈だが……おそらく邪魔しないように声をかけなかったのだろう。村釜が
スーツ姿なので、就職希望先の人間と話していると思われたのかもしれない。仕方が無いので
耕治は一人で出かける事にした。2へ進め。

191
 急いでかけてみると、電話はすぐに繋がった。
『もしもし、村釜です。どちら様でしょうか?』
 何かを急いているような声だった。微かに他の人間の声も漏れている。
「村釜さんですか。僕は耕治……安納耕治です。夕方、ウチの家宝を買いに来られましたよ
ね? あれのせいだと思うんですが、その、なんと言うか……ちょっと大変な事になって……と
りあえず警察を呼んで欲し……」
『耕治君!? 君だったのか、すぐに行くから待っててくれ! とりあえず、今はどこにいる!? 家か
な?』
「え? あ、はい」
 耕治の話が途中だと言うのに、村釜の語気が急に荒くなった。耕治は勢いに押されて生返事
をする。
『よし、その付近でどこか安全な場所を探して隠れるんだ! こっちもできるだけ急ぐ!』
 そう言って電話が切れた。まるで耕治が置かれている状況を理解しているような言い方だっ
た。果たして彼に連絡を取ったのは正しかったのか……?
○状況記録値Nを20増やす。
 美由が不安そうな顔で周囲を窺っている。化物の気配は濃くなる一方だ。118へ戻れ。

192
 乱闘になるかと思いきや、村釜は男の腹へ強烈なパンチを見舞い一発で大人しくさせた。動
きの鋭さは耕治の素人目にも武術の心得を感じさせる程だ。男は腹を押えて近くの木にもた
れる。男へ油断無く対峙しながら、村釜は耕治へと振り向きもせずに声をかけた。
「大丈夫かい? 君の姉さんに追い出されて外へ出てみたら、君の後姿が見えた物でね。不自
然な歩き方をしているから何かあるかと思って着いてきたが、結果的に良かったみたいだ」
「すいません、助かりました。でも美術商ってそこまで気を回す物なんですか?」
 少し嫌味になるかと思いもしたが、それでも耕治は訊いてみた。美術商という仕事は自ら面
倒事に首を突っ込むような物だと思えない。うっ、と村釜は一瞬だけ口篭る。
「こ、これは……そう、俺個人の性格でね! 昔からトラブルの臭いが好きな、ちょいと危険な
男なのさ。こうして格好よく助っ人に入る事もできるしね……っ!」
 台詞の最後で村釜は上体を逸らした。その前髪を『何か』が掠める。後ろにいた耕治にはよ
く見えなかったが、男のポケットから何か紐のような物が伸びているのが見えた。だがそれが
何かを確認する間もなく、男は公園から飛び出し走り去る。咄嗟に村釜は懐に手を入れ……
思い出したように耕治の方を見て、手を引き抜き咳払いをした。
「思ったよりもタフな奴だったな。もう一発入れておくべきだったか。さて、俺はもう帰るとしよう」
 そう言って村釜は改めて懐から財布を出し、名刺を一枚耕治に手渡す。
○状況記録値Nを10増やす。
「もしさっきの男をまた見かけたら、警察か俺に連絡してくれ。俺は他の仕事があるから、まだ
しばらくはこの町にいるよ。何、乗りかかった船という奴さ。じゃ、元気でな。お姉さんによろし
く」
 そう言って村釜はぎこちない笑顔を見せ、足早に歩き出した。取り残された耕治はどうしたも
のか考えながら時計を見る。四時半はとっくに過ぎている。徹也はもう家を出てしまっただろ
う。ため息をついて、耕治は一人駅へ向かう事にした。2へ進め。

199
 轟音とともに燃え落ちるカイ修道院を見ながら、ダークロード軍の指揮官は満悦の笑みを浮
かべた。最も重要な敵施設への強襲が、これ以上ないほど上手く行ってくれた。森の中で空を
焦がすこの炎こそ、自軍の勝利を照らすかがり火となるに違いない。
 だがそれが生温い奢りであった事を、部下からの通信により思い知る事になる。
『隊長! 炎の中で動く物が! あ、あれは……! 『スウォード』です、黄金に輝いて……』
 轟音が聞こえた。己の耳で、はっきりと、修道院を燃やす物とは違う音が。部下の機体、量
産型ジャークを吹き飛ばす爆音が。
 ジャークの間を動揺が波のごとく広がって行く。黄金の巨人が炎の中から歩み出てきたの
だ。天を突く鋼の甲冑が、その手に長大な剣を持っている。その甲冑こそがスウォード(SWE
RD)――Strike War Extra Riding Doll――であり、人の約10倍の大きさを持つ最強の兵器な
のだ。
 それを開発し、運用に漕ぎ付けた事こそ、ダークロード軍が必勝を確信し、ソマーランドへ侵
攻した最大の理由なのである。
 だが、ソマーランド軍もまた実用化に成功したのだ。たった今、ここで。
 黄金のスウォードが剣を振り上げた。その肩には狼の顔を模った紋様が彫られている。
 フェーマン歴0061、長い戦争がここに始まった――14へ進め。

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