301以降

302
 もし状況記録値Rが1以上ならこの家の戸にはしっかりと鍵がかけられている。押し入るわけ
にも行かないので3へ戻れ。
 そうでなければ耕治は玄関の呼び鈴を鳴らそうとする。だがその直前、家の中から悲鳴と助
けを呼ぶ声が聞こえる。戸を突き飛ばすように開けて耕治は中に飛び込んだ。霧に覆われた
廊下を走りぬけると居間に出る。居間には血が飛び散り、野々宮家のおじさんが倒れていた。
近くではおばさんと中学生の一人娘が抱き合って震えている。倒れたおじさんには三つの巨大
な肉団子がたかり血を啜っていた。表面には吸った血が透けて見えている。肉団子は耕治の
存在を察し、床を跳ねて向かってきた。
肉団子(三匹)  戦闘力7  攻撃力2  生命力3
 逃げるなら家を飛び出して3へ戻れ。戦って勝てば78へ、負ければ4進む。

304
 鋭い音とともに半透明の心臓が大きく切裂かれ、解放された美由が床に倒れる。ガラシャツ
の男が目を丸くする中、耕治が霧の中でゆっくりと立ち上がった。その足元では美由が耕治を
見上げている。弟から感じる異様な気配に気圧され、美由は言葉一つ出ない。
 耕治の右手には家宝の柄が握られていた――ひっくり返ったちゃぶ台から転がり落ちた物
が、まるで図ったかのように手をついた場所にあったのだ。その柄は薄ぼんやりと青色に光
り、耕治の瞳もまた同じ色に染まっていた。
 耕治は無言で構える……まるで柄が刃のついた刀であるかのように。心臓に向け、柄を横に
一閃した。その動きに合わせ、同時に、寸分の狂いもなく、煌く光の軌跡が心臓の体表を走
る! その表面が切り裂かれて半透明の体液を噴き出した。蠢動する心臓を冷酷に見つめ、
耕治は追い打ちをかけるべく柄を構えなおした。その慣れた動きの正確さと素早さは、さっきま
での耕治のそれではない。
 命中値と敏捷度を2増やすこと。さらに生命力の最大値と現在値を4倍する。
 今後、耕治は家宝の柄を武器として戦う。敵に振り下ろせば不可視の刃が相手を切り裂く…
…その攻撃力は3点である。姉の前へ庇うかのように立ち、耕治は肉塊へさらなる攻撃を
加えた。肉塊は叩き切る前の半分ほどの大きさになっているが、まだ動いて鞭毛を振り回して
くる。
半透明の心臓  戦闘力7  攻撃力2  生命力6
 美由を庇わねばならないので逃げる事はできない。どちらかが死ぬまで戦え。勝てば35へ、
負ければ4へ進む。

308
 耕治は通りを西へ向かって抜ける。状況記録値Tが1以上なら56へ進め。
 そうでなければ耕治は美由の手を引いて先へ急ぐ。とりあえず交番に行って助けてもらおうと
考えたのだ。だが角を曲がった所で、耕治は人間の集団と出くわす。年齢も体格も格好も様々
で統一感がまるで無いが、その先頭にいる人物には見覚えがあった。家宝を買いに来た村釜
である。
 状況記録値Nが21以上なら140へ進め。
 そうでなければ村釜は耕治達と会った事に驚いた様子だ。耕治が右手に握る柄を見て、村
釜は困ったように頭を掻く。
「参ったね。どうも動くのが遅かったようだ。とりあえず耕治君、美由さんと一緒に俺達と行動し
てくれないかな。もちろん訳は話すよ。今はちょっと急ぎの用事があるからそっちが先になるけ
どな」
 村釜は穏やかに話してはいるが、後ろの集団は道を塞ぐようにやや散開している。それぞれ
の顔には緊張が見て取れた――戦意とともに。村釜と行動を共にするなら135へ、断るなら
11へ進め。

311
○状況記録値Tを30にする。
「すいませんが、警察に行きたいんです。死人も出てるんですよ」
 耕治がそう言うと後ろの集団がますます緊張を濃くした。村釜が首を横にふる。
「ちょっと訳ありでね。先に俺達が現場を見た方がいい。法的にはちょっと問題があるけど、そ
の方がスムーズに事を処理できる。あ、勘違いしないでくれ。俺達は君に敵意は無いよ。むし
ろ……そう、正義の味方って所かな。君と美由さんを助けるために颯爽と今登場したわけさ。
いや、合法か違法かと言われれば微妙、むしろ黒にな……」
「また今度お願いします!」
 そう言って耕治は身を翻し、美由の手をとって駆け出した。後ろから呼び止められたが振り
切って走る。3へ進め。

312
 もし状況記録値Rが1以上ならこの家の戸にはしっかりと鍵がかけられている。押し入るわけ
にも行かないので3へ戻れ。
 そうでなければ耕治は玄関の呼び鈴を鳴らそうとする。だが押す直前、動きを止めた。中か
ら漂う……血臭と化物の気配! そっと戸を開けると、中から生々しい音がする。何かを強烈
に啜る音が。
「姉ちゃんはここにいて。様子を見てくる」
 そう言って柄を握り締め。耕治は家の中に踏み込んだ。霧に包まれた廊下を通り抜け……
耕治は姉を連れてこなかった事を正解だと心の底から思った。血の海に三人の人間が倒れて
いる。この家に住んでいた家族だ。その屍に群がるのは三つの巨大な肉団子。表面には吸っ
た血が透けて見えている。肉団子は耕治の存在を察し、床を跳ねて向かってきた。
肉団子(三匹)  戦闘力7  攻撃力2  生命力3
 逃げるなら家を飛び出して3へ戻れ。戦って勝てば364へ、負ければ4進む。

325
 対峙する男と耕冶、少し離れた場所で固唾を呑んで見守る美由。三人の近くで不意に足音
が聞こえた。自分の存在を知らしめるかのような、不自然に大きな足音が。皆がそちらへ目を
やり、そして思わず動きを止める。
 徹也が立っていた。右手に握った刀の鍔が霧の中から浮かび上がるかのように赤く輝いて
いる。同じ色に輝く瞳で徹也は化物を睨みつけた。
「やっとお出まししたかと思ったら、またウチ家のモン者にアヤつけてるとはな。姉ちゃんを襲っ
た事、耕治を傷つけようとした分、そして爺ちゃんの恨み……一つ残らず俺がブチ込んでや
る!」
 その言葉と同時に煌きが舞った。光の軌跡が刃となって徹也の周囲で渦を巻く。次の瞬間、
刃の渦が竜巻となって男を襲った! 服と皮膚が切り裂かれ血飛沫が舞う……だが男は一瞬
怯んだだけで、腕を振り回すと竜巻を突破した。それを迎え撃とうとする徹也。
 その横に耕治も進み出る……手に薄青く輝く柄を握り締めて。意外そうに徹也が目を丸くし
た。
「おいおい、耕治もやる気なのか? 俺一人でも充分だぜ?」
「じゃあ二人ならもっと充分じゃないか。姉ちゃんと徹也が危険だったのに、充分が過ぎるなん
て事はない」
 糞真面目にそう答える耕治。徹也はふふんと上機嫌で笑い、敵へと向き直り力強く叫ぶ。
「よっしゃそこに居ろ。どうせすぐに終わるけどな!」
 徹也と二人で戦え。敵が徹也と耕治のどちらを攻撃するかは任意に決めて良いが、どち
らかの生命力が0以下になったら耕治達の敗北となる。また、耕治の生神力を消費して、徹也
の能力を戦闘ルールどおりに上げる事も可能だ。
 踰神の信徒  戦闘力8  攻撃力12  生命力24
 戦って勝てば44へ、負ければ4進む。

333
○状況記録値Uを20増やす。
「こんにちは。徹也、来たよ」
 挨拶しながら玄関の戸を開ける耕治。秋月家は安納家と同じ長屋にあり、空家を挟んで隣
だ。まさに目と鼻の先なのである。徹也は居間でポケットに財布を入れている所だった。Tシャ
ツにジーパン姿だが、徹也は別に寒くないらしい。
「よう。ちっと便所に入っててな。今着替え終わった所だ。じゃあブラブラ行くか」
 そう言って靴を履き、徹也は耕治を連れて玄関から出た。戸に鍵をかける。
「本当、爺ちゃんは休まないね。あの歳で盆と正月しか休まないってのは凄いよ」
 徹也の祖父・源三の姿が無かったのは、この時間まだ働いているからである。源三は近くの
市場の片隅で店屋物屋を営んでいるのだ。知り合いに空いている場所を安く借り、そこで屋台
を広げて焼きソバ・タコ焼き・お好み焼きを売っている。隅の方とはいえアーケード街なので天
候にもほとんど左右されず、毎日朝から夕方まで店を開いていた。源三は見かけ大人しく物静
かな老人で非常に小柄、禿頭で髭も薄くなで肩で声も小さく、あまり存在感の強い人ではない。
それなのに仕事に関しては非常にタフであり、このギャップを耕治は昔から不思議に思いなが
らも尊敬していた。
 徹也がへへっと嬉しそうに笑う。
「凄ぇよ。ま、俺の爺ちゃんだからな。でも俺が働き出せば楽になって休みも取れるさ。じゃ、そ
の勤め先を探しに行くとしますかね」
 そう言って徹也は歩き出した。源三の事を良く言えば、どんな時でも徹也は上機嫌になる。耕
治はよく知らないが、徹也の両親はどこかで生きているらしい。だがどんな事情があったの
か、二人とも秋月家から出て行ってしまったのだ――徹也が物心つく前に。一人で徹也を育て
てくれた源三は、徹也にとって親以上の存在なのである。2へ進め。

345
 もし状況記録値Qが1以上ならもう家には何もいない。外へ出て3へ戻れ。
 そうでなければ霧に包まれた部屋の中を何かが漂っている。風船のような肉塊が二つ、触手
を揺らめかせているのだ。美由が恐怖に引きつった声を漏らし、それを聞きつけたか肉塊が
触手を伸ばしてきた。
小さな肉塊(二匹)  戦闘力8  攻撃力2  生命力3
 逃げるなら家を飛び出して3へ戻れ。戦って勝てば157へ、負ければ4進む。

347
 少し間をあけて、耕治は男の後ろについて歩いた。男は近くの公園へと入っていく。耕治は
男に見つからないよう、茂みを挟んでついて行く。男が探っていた相手が村釜なら別にいい。
だがもし美由ならば……すぐにでも警察に相談せねば。
 耕治がそう考えていると、男は公園の中で立ち止まった。耕治は息を殺して聞き耳を立て
る。誰かに携帯電話で連絡をとっているらしい。茂みを挟んでいるので聞こえ難く、「確かにあ
ります」「いつやるんスか」「俺が?」等、言葉の断片しか拾う事ができない。
 耕治はふと気付いた。どこからか小さな唸り声が聞こえてくる。犬のような、人のような、もっ
と別の動物のような……。そっと辺りを見回して見たが何もいない。
 その時、突然目の前の茂みが割れた! 飛び上がらんばかりに驚いた耕治の目に、茂みを
掻き分けた男の顔が映る。完全に眉毛が釣り上がって顔色も赤く変わっている所を見ると、相
当に御立腹のようだ。
「こんガキャア……何してやがる。おう、ちょっと来いや」
 そう言って男は耕治の胸倉を掴んだ。不意をうたれた耕治は為すすべなく男に引き寄せられ
る。そのまま近くの木に押し付けられた。そのまま男は腕を振り上げた。いきなり殴りかかるつ
もりとは、相当聞かれたくない話だったに違いない!
 逃れようと耕治が身を捩る……直前、男の腕がそのまま後ろに捻られた! うおっ、と声を
上げて男は後ろへ引っ張られる。耕治は咄嗟に男の腕を振り払った。自由を取り戻し、耕治は
男の後ろに別の人影を見る。
 いつの間に近寄ったのか、それは村釜だった。男の腕を捻り上げている村釜を見て、耕治は
彼が以外にがっしりした体格である事を悟る。村釜は耕治を見て何か言おうとしたが、その
時、男が怒声をあげて暴れようとした。
 今のうちに逃げるなら38へ進め。この場に留まって事の成り行きを見守るなら192へ進め。

348
 桁外れの威圧感、桁外れの破壊力。これまでとは一線を画す敵を前に、耕治の脊髄を冷たい物が重苦しさとともに掴んだ――死の予感である。だが……産まれて初めて強烈に死を意識する中、耕治は微かな物音を耳にした。振り向いた耕治の目に美由が映る。恐怖に震え、歯の根が合っていない。この危機に対し美由は全くの無力だ。化物に襲われれば最後、何も出来ずに食い殺されるのは明らかだった。
 耕治が男へと視線を戻した。鋭い瞳には微塵の恐怖も無く、挙動には一切の迷いが無い。腕が動く……先刻まで以上に、速く強く、何かに後押しされるかのように。これまでとは段違いの速度で柄を振った。
 鋭い音とともに光の軌跡が走った……男の眼前の空間に、何の前触れも無く!
 耕治の手元から何メートルも離れた空間に、斬撃だけが突然発生したのである。それは男を掠めて切裂き、浅いながらもはっきりと傷跡を残した。うお、と男が驚愕の叫びとともに仰け反る。
「何だ!? 今、何をした? こんな事ができたのか?」
 できる事に耕治自身が今気づいた。この柄の生み出す不可視の刃に距離の概念は無いの
だ――目標とする場を直接切りつける事ができるのである。
 今後は戦闘手順@において、耕冶の敏捷度と同じ回数だけ敵を攻撃する事
ができる。敵が接近する前に、離れた場所から連続で攻撃できるからだ。生神力を消費して
敏捷度を高めれば、攻撃回数も一時的に増えることになる。このことを超能力欄へ記入してお
くこと。
○状況記録値Vを50増やす。
 耕治は家宝の柄を構え敵と対峙する。青く輝く瞳には、ただ闘志あるのみ。
「次は当てる……そしてお前を倒す。覚悟!」
 状況記録値Uが41以上なら325へ進む。
 それに当て嵌まらなければ状況記録値Nを確認し、21以上なら95へ進め。
 これらに該当しないのならば、敵の能力は次の通りだ。
踰神の信徒  戦闘力8  攻撃力12  生命力24
 美由を放って逃げる事はできない。最後まで戦え。戦って勝てば104へ、負ければ4進む。

355
 もし状況記録値Qが1以上ならもう家には何もいない。外へ出て3へ戻れ。
 そうでなければ耕治は家の中にいくつも溶けた水溜りがあるのを見つける。生臭い臭いとい
い気配の残滓といい、これは化物が死んでできた物だ。だが動く物は無い。見れば窓が割れ
ている。もし生き残った化物がいても、得物がいないのでそこから出て行ってしまったのだろ
う。だがいつまた化物がこの家に入り込むかわからない。
 耕治は水溜りへ柄を握る手を差し伸べた。淡い燐光が僅かながら立ち昇り、柄へと吸い込ま
れてゆく。生神力を4増やすこと。ここに残っているエネルギーはこれだけだ。
○状況記録値Mを10増やす。
 安全な場所を探すため、耕治は美由を連れて秋月家を出た。3へ戻れ。

364
 肉団子は溶け崩れて血の混じった水溜りと化した。だがこの家の住人は既に息絶えている。
親しいわけではないが、それでも見知った人達である。耕治の胸に重苦しい物が立ち篭った。
それでも柄を差し伸べ、水溜りから立ち昇る燐光を吸収する。生神力を12増やす。
○状況記録値Mを10増やす。
外に出た耕治を見て、美由は不安げな顔で尋ねる。
「どうしたの? 中はどうなってた?」
 耕治は黙って首を横に振った。美由は納得していない様子だったが、それ以上何も聞かなか
った。3へ進め。

376
 斬られて転がる化物を軽く蹴飛ばし、耕治は改めて男へと詰め寄る。
「さあ教えてもらおうか。あんたに命令してる奴の事、もうじき来るという仲間の事を」
 震えながら男は首を何度も縦に振った。
「わか、わかった! 教える、教えるから! 勘弁してくれよ、俺は命令されてるだけの下っ端
なんだ!」
「駄目だ。勘弁できねぇ」
 別の声が入り口から聞こえた。振り向いた耕治の目に徹也の姿が映る。徹也は玄関にいた
美由を押しのけ、赤い瞳を光らせながら家に上がってきた。
「命令した上がいても、爺ちゃんを殺したのはコイツだ。見逃す? 馬鹿言うな……両方許さね
ぇに決まってんだろ!」
「待てや! 俺を殺したら、上の情報は聞けないんだぞ!?」
 悲鳴のような声をあげて男が訴えた。だが徹也は黙って男を睨みつける。瞳の輝きが一瞬
増した。それからおもむろに右手を上げて男の方に向ける。
「今教えてもらったぜ、木庭深男さんよ。アンタの上とやらの事も、アンタが知っている限りは
な。それじゃあ……死ね」
「待て徹也!」
 耕治は徹也の肩を掴んで止めようとした……が、それに構わず光の軌跡が渦巻く。悲鳴と血
飛沫が部屋に散った。287へ進め。

402
 耕治は美由を背中に庇い、道の先を窺いながら電柱や看板の陰を渡り歩く。あの男との戦
闘は避けたい。だがどこに行ったのか、さっき相手と会った場所まで来てもどこにもその姿は
見えなかった。
 訝しむ耕治。その脳髄の奥が、神経が、直接何かに触れるような感覚があった。咄嗟に美由
の手を引いて道路の真ん中へ飛び出す。直後、耕治の隠れていた看板がグシャグシャに潰れ
た! さらに耕治を追うように巨大な腕が宙を薙ぐ。地を蹴って避けようとしたが、連続しての
急な運動についてこれずに美由が悲鳴をあげて転んだ。その拍子に繋いでいた手が離れてし
まう。
「姉ちゃん!」
 慌てて姉へ駆け寄ろうとする耕治。だが耕治と美由の間を影が塞ぐ。どこに潜んでいたの
か、それは踰神の信徒を名乗る例の男だった。
「神工の使い手となったばかりだから仕方ないが、中途半端な覚醒だな。完全に会得するか、
いっそ気づかぬうちに死ぬか……どちらかなら君も楽だった物を」
 状況記録値Dが11以上なら348へ進む。
 そうでなければ況記録値Uを確認し、41以上なら325へ進む。
 それにも当て嵌まらなければ状況記録値Nを確認し、21以上なら95へ進め。
 これら全てに該当しないのならば、敵の能力は次の通り。
踰神の信徒  戦闘力8  攻撃力12  生命力24
 美由を放って逃げる事はできない。決着がつくまで戦え。戦って勝てば104へ、負ければ
へ進む。

405
 灯りがついていないにも関わらず、秋月家の戸は鍵もかけられていなかった。勝手知ったる
他人の家、耕治は戸を開けて中に入る。
 状況記録値Mを確認せよ。その値が10なら345へ、20以上なら355へ進め。
 そうでなければ耕治は玄関の中で足を止める。暗い居間の中は霧で満ちていた。その中を
風船のような肉塊が触手をぶら下げて漂っている。それに囲まれるように立っている男が一
人。赤い目を輝かせた徹也である。耕治は思わず呼びかけた。
「徹也! ここにいたのか!」
「耕治か。爺ちゃんの仇のあの男、俺の家に来たかもしれないと思ったんだが……化物だけ撒
いて別の所にいやがるらしいな。こんなのが俺の家にいやがるのは許せねぇ。きっちり殺しと
かねぇと」
 その言葉が終わるが早いか、触手が徹也へと伸びた。だが徹也が片手を振り上げると煌く
軌跡が渦を巻く。渦は触れた触手を切り裂き弾き飛ばした。
 だが悠長に見ているわけにもいかない。化物の一匹が耕治へと迫ってくるからである。
小さな肉塊  戦闘力8  攻撃力2  生命力3
 逃げるなら家を飛び出して3へ戻れ。戦って勝てば101へ、負ければ4進む。

422
「今日は今から出かけるんだ。晩ご飯までには帰ってくるよ」
「そうなの? 残念だけど仕方ないか……今、大切な時期だもんね」
「ごめん。じゃあ行って来ます」
 名残惜しげな美由に手を振り、耕治は家を出た。徹也の家に向かおうと思っていたが、道路
でばったりと見覚えのある顔に出くわしてしまう。美術商の村釜が、まだ長屋前の道路にいた
のだ。携帯電話で誰かと話していたらしいが、丁度話を終えた所のようだった。
「おや、君はさっきの……。グッドタイミングだ、ちょっと話をしたいんだがいいかな?」
 携帯電話をしまいながら村釜が声をかけてくる。笑顔ではあるのだが、耕治はどことなく隙の
無さのような物を感じた。
 了解するなら182へ進め。
 断わるなら村釜は気を悪くした様子もなく立ち去る。この場合は333へ進め。

428
 耕治は美由の手を引いて霧の中を早足で歩く。繁華街の方へ行けば人も多い。そこへ行け
ば化物も追って来ないかもしれない。もし状況記録値Sが1以上なら402へ進め。
 そうでなければ、長屋の前の通りを出て角を曲がった所で一人の男に出くわす。薄暗い夜道
を塞ぐように立つ男はカジュアルなスーツに身を包み、長い髪に香水を微かに漂わせている。
シャツの胸元を大きくはだけさせ、切れ長の目で耕治を品定めするかのように見ていた。ホス
トなのかチンピラなのか判別し難いが、耕治はその男から只ならぬ気配を感じる……化物ども
と同質の、それ以上に密度の濃い気配を。
「『しんく神工』を使い出した少年というのは君か。それは俺達にとって、あっては困る物だ。す
まないが渡してもらうよ」
 そう言うと男は右手を振った。ずるり、とその腕が伸びる。袖がはちきれ、縮れた紐が絡まり
あったかのような触碗が露出した。指と掌は肥大化し、人間の上半身ぐらいなら一握りできそ
うだ。
○状況記録値Sを1増やす。
 男の変化を前に、美由が耕治の背後で悲鳴をあげる。男は笑った――顔の皮膚が透き通
り、下の血管が透けて見えている。
「泣こうが喚こうが誰も来ないよ。この霧の中に普通の人間は入れない。近くに来ても入ろうと
すら出来ない――知覚できないんだ。この中は既にこちらのテリトリー……この世から切り離さ
れかけている」
 そう言うと男は右手を叩きつけて来た。美由を庇いながらも間一髪で避けた耕治……その足
元でアスファルトが豆腐のごとく砕かれる! 冷や汗を流す耕治の前で、男の腕が蛇の頭のご
とく鎌首をもたげる。
「ゆがみ踰神の信徒はかすだま化子魂どもとわけが違う。観念しろ、少年」
 状況記録値Dが11以上なら348へ進む。
 そうでなければ状況記録値Uを確認し、41以上なら325へ進む。
 それにも当て嵌まらなければ状況記録値Nを確認し、21以上なら95へ進め。
 これら全てに該当しないのならば、敵の能力は次の通り。
踰神の信徒  戦闘力8  攻撃力12  生命力24
 逃げるなら全力で道を引き返して3へ戻れ。戦って勝てば104へ、負ければ4進む。

433
 状況記録値Oが1以上ならもうここで電話をかけても仕方が無い。すぐに118へ戻れ。
 そうでなければ耕治は居間の片隅にある電話へと向かう。その受話器を手にとって警察へ
電話をかけた。幸いすぐに繋がってくれた。
「はい。こちら警察です。どのようなご用件でしょうか?」
 落ち着いた女性の声。が、化物の事など話せば相手にされないだろうとの考えが耕治の頭
に浮かぶ。
「その……強盗です。家族が殺されました。すぐに来てもらえませんか」
 電話の向こうで驚きの声があがった。相手に尋ねられるまま住所を教え、耕治は受話器を置
く。これで五分もすれば警官が来てくれる筈だ。そうすれば耕治と美由の安全は確保してもら
えるだろう。
○状況記録値Mを10増やす。
○状況記録値Oを1増やす。
 だが十分、十五分と待ってもサイレンの音は聞こえなかった。最寄の派出所からここまで、徒
歩でもそんなにかかりはしない。美由が耕治の背に寄り添ったまま声をかけた。
「遅いね。なんだか、私たち……世の中から取り残されたみたいだね」
 美由の声は普段から考えられないほど、か細く弱々しい。どこからか漂う化物の気配は徐々
に濃くなっている。耕治は美由の方へ振り向くと、姉の肩をそっと抱きかかえた。
「らしくないよ姉ちゃん。大丈夫、僕がついてる。姉ちゃんは僕が守るから心配しないで」
 耕治の腕の中で、うん、と小さく、美由が頷く。
○状況記録値Dを10増やす。
 事情はわからないが警察はなかなか来てくれそうにない。もし状況記録値Nが1以上なら16
7へ進め。そうでなければ耕治は待つのをやめる事にする。118へ戻れ。

499
 部屋の隅でうねる物がある。それは小さな白い蛇で、ピーナッツの袋に齧りついて悪戦苦闘
しているのだ。どうやら封を切ろうとしているようだが、手が無いので上手くいかないらしい。
「チッ、今ごろの袋はどうも開け難くていけねえぜ。手が無くても使える鋏ぐらい、大日本帝国
の技術力でなんとか開発してくれんもんかねえ。全国の俺が大喜びだってのによ」
 ぶつくさと呟く蛇の動きがあまりに不細工で鈍臭いので、仕方なく袋の口を切って中身を口に
流し込んでやった。蛇は大喜びで酒臭い大口を上に向ける。流石に蛇というべきか、口があま
りに大きく開くので、両の頬を掴んで横に引っ張って見た。
 おお、どこまでも伸びるではないか。んあー、と呻くような声をあげる蛇の口を広げるうち、つ
いに両手をいっぱいに伸ばす所までいった。
 あまりに力を入れて引っ張るうち、体勢を崩して前に倒れてしまう。蛇の口はどこまでも深く、
己が広げた口の中に文字通り転がり落ちる羽目になった。落ちる……どこまでも……14まで
止まる事なく。

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